プロテウスは小さくなるピピの後ろ姿をいとおしげに見ていました。
そして、光と大地の調停者アウロラのいったという言葉を思い出し、あの珊瑚の剣を標として、トリトン族の少年がこの北の海にピピを迎えにやってくる日はそう遠くないだろうと感じていました。
(トン)
その夜、ピピは氷の船の中、ベッドに横たわり、
つぶやきました。
「私はトリトン族の生き残り・・そして、いつか同じ
トリトン族の男の子が私を迎えにくるの・・・
氷の精さんがいっていたのはその子なのね?」
氷の精はピピの枕元で、小さく光りました。
「いつかその子がきたら元の姿に戻れるのね・・?
・・早く来てくれるといいな・・」
ピピはいつの間にか眠りに入っていました。
この2日間の冒険は、小さなピピにとって大変なもの
でした。
ピピは夢を見ていました。それは氷の精がハートの形
を崩し、美しい小さい無数の光に輝いていました。
”ピピ、ありがとう。私たちはポセイドン族のミノータスという魔人に記憶を奪われ、力を封印されていました。けれど、あなたのおじいさんの言葉で完全ではないけれど、少しだけ力を取り戻しました。ピピ、あなたが私たちのためにしてくれたこと、忘れないわ。あなたがその少年と海のために戦う日がくるでしょう。それまでもっと小さな生き物になり、この北の海に漂い、あなたたちを見守ります。私たちの名前は、クリオネ・・。ピピ、さようなら・・・”
翌朝、目を覚ましたとき、氷の精は消えていました。
(トン)
ピピは大きな氷山の流れる水のカーテンをとおり、みんなのいる広場にもどりました。
「ピピ、朝からどこに行っておったんじゃ?みんなで捜していたんじゃぞ」
大きな身体を揺らし、プロテウスが駆けて来ました。
「ごめんなさい」
ピピは心から謝りました。ブルバキモヤも皆から取り囲まれました。
「うん?その手に持っているのはなんじゃ?」
プロテウスはピピが大事そうに手のひらに包んだ小さなハートに気づきました。
「・・あのね、プロテウス・・」
ピピは覚悟して今までのことをゆっくり思い出しながら話し始めました。
プロテウスは時々うなずきながら、ピピと氷の精、ブルバキモヤの姿を交互に見つめました。
すべてを聞き終わり、プロテウスは大きなため息をつきました。しばらくして
「ピピ・・・お前はやっぱり勇敢なトリトン族の娘じゃ」
と満足そうに言い、ピピにやさしく微笑みました。
てっきり怒られると思っていたピピはびっくりし、また、初めて聞くトリトン族という言葉に目を丸くしました。
「お前にすべて話すときがきたようじゃ・・・
いいか、ピピ、お前は海の平和をずっと守ってきた
トリトン族の忘れ形見なのじゃよ・・」