トリトンの部屋  (1) (3)

その夜、ピピは夢を見ました。
寂しげな表情の緑色の髪をした人魚の夢でした。
でも足下が見えなかったので、もしかするとあれは人間というものだったのかも・・。
「あなたは誰?何をみているの?どうして悲しい顔をしているの?」
問いかけてもその人間は黙ったままで 霧の中へ消えてしまいました。
目が覚めてピピが憶えているのは緑の髪だけ。
「どんな顔か憶えていないけど、でもなんだかステキだったな・・・

その夜、ピピは夢を見ました。
寂しげな表情の緑色の髪をした人魚の夢でした。
でも足下が見えなかったので、もしかするとあれは人間というものだったのかも・・。
「あなたは誰?何をみているの?どうして悲しい顔をしているの?」
問いかけてもその人間は黙ったままで霧の中へ消えてしまいました。
目が覚めてピピが憶えているのは緑の髪だけ。
「どんな顔か憶えていないけど、でもなんだかステキだったな・・・
もしかして私を迎えに来るとかいう人間かしら。
でも棒も赤いケンも持っていなかったわ]
そんな夢をみたせいか、ピピはますます姿を変えられた氷の精達のことが気になります。
「赤いケンとか男の子なんて当てにならない!私がなんとかあの妖精達を助けてみるわ」
ピピは今度はブル モヤ バキと共にまたあの氷の下へ行ってみようと決めました。
(高森はいねさん)

翌日、氷の船で朝早くからピピが何かをしています。
ブル、バキ、モヤはピピの近くにいきました。
「ピピさん、なにしてるの?」
ブルが問いかけました。
ピピは以前プロテウスからもらった赤い珊瑚の枝を硬い石で削っていました。
「あ、それピピさんの宝物でしょ?なんでそんなことしてるの!?」
バキが驚いてピピの手元をのぞきこみます。
「もう、バキ、暗くなるからどいて!」
ピピは一生懸命でした。削り終わるとその珊瑚に小さな真珠のかけらを少しずつくっつけました。
「ふぅ〜、できたぁ! どう?みんな、これが何に見える?」
ピピは出来上がったものをみんなに見せました。
3人はしばらく顔を見合わせ考え・・
「それって、もしかして・・・赤く光る剣?!」
「ピ・・・ピピさん、まさかそれで氷の精を
 救おうってぇの?」

と声をそろえて言いました。
「そうよぉ。さあ、行くわよ!」
ピピは勢いよく珊瑚の剣を振り上げました。
(トン)

そして、4人は、氷の魔法使いのいる
氷山の下へ勇んで出かけていきました。
しかし、周りがどんどん暗くなっていくと、
ブル、モヤ、バキの3人は、だんだん心細く
なってきたのでした。
「ねえ〜ピピさん戻った方がいいんじゃ
ない?じいさんだって心配してるよ。」
とうとう、バキが言いました。
「だめよ。早く助けないと。氷の精さん、
もっとひどい目に遭わされるんだわ。」
「でも、僕らだって、見つかったら、
ハートの形に変えられちゃうんだよ。」
と、ブルも不安そうに言いました。
ピピも、本当は怖かったのですが、勇気をふるって答えました。
「平気よ。そのために、赤い剣、作ったんじゃないの。」
その言葉を聞くと、3人は安心したのか、泳ぐスピードを上げました。
やがて、悪い魔法使いの住んでいる氷の壁が見えてきました。
「あそこよ。いい?し〜〜っ。みんな。静かに。音を立てちゃあ、だめよ。」
ピピが小さな声で言いました。3人もそおっと、氷の壁に近づいていきました。
そこは、暗い海の底でも一層暗く、水がずっしりと重くのしかかってくる場所なのでした。4人は、辺りを見回しながら氷のすきまを泳いでいきました。

(ルイさん)

   ”ピピ・・ピピ・・・”
   それは氷の精の声でした。
   「あ、氷の精さん、どこにいるの?だいじょうぶ?」
   ピピがバキに止まるように行って、ブル、モヤも周りを見回しました。
   ”ピピ、あの男の子が来てくれたの?”
   氷の精はまだ姿を現さないでいます。
   「ううん、でも、赤い剣を作ったの。」
   ピピは珊瑚の剣を大きく振り、どこにいるかわからない氷の精に見せました。
   ”男の子と赤い剣でなくては魔法使いには勝てないわ・・”
   「うん、もう!どこにいるの?」
   なかなか出てこない氷の精にピピはちょっと苛立ちました。
   「ピピさん、変だよ・・帰ろうよぉ」
   モヤがピピの後ろ髪を小さな口で引っ張りました。
   「氷の精さん、ここに来て。皆であなたたちを助けたいの・・」
   ピピが珊瑚の剣をバキの口に預け、氷の隙間の光のもとに泳ごうとしました。
   ”だめよ、ピピ”
   ピピの目の前に突然ピンクのハートの氷の清たちが現れました。
   「よかった、無事だったのね」
   そのとき、奥の光が揺らめいたと思うと、ロウソクの火が消えたように、
   急に暗くなりました。

      (トン)

                     「わっ。」
                    「きゃあ。」
                     4人は、思わず声を出してしまい、
                     慌てて口を押さえました。
                    「い、今のは何?」
                     小刻みに体を震わせながらピピが
                     尋ねました。
                    ”静かに、まだ、大丈夫よ。”
                     氷の精が話しかけました。
                    「何が、大丈夫なんだよ。」
                     ブルが不安そうに聞きました。
                    ”悪い、魔法使いが目を覚ましたの。
                     でも、今ここを私たちの力で暗くした
                     から、しばらくは見つからないわ。
                     今のうちに、さあ、早く逃げて。”

                    「だめよ。今度、あたし達を逃がした
                     ら、何されるか解らないわよ。
                     逃げるんなら、一緒に、ね。」
                     とピピが言うと、

「そうだ。僕たちの入り江においでよ。仲間がいっぱいいるから、悪い魔法使いに見つかっても怖くないよ。」
とモヤも続けて言いました。
「そうだよ。それに、物知りのおじいさんもいるから、赤い剣が無くても、きっと良い方法を教えてくれるはずだよ。」
と、バキが、口をもごもごさせながら言いました。
「もう、バキったら、剣をおっことしたら承知しないわよ。おじいちゃんがくれた宝物なんだから。」
”有り難う。ピピ、大切な宝物を私たちのために・・”
氷の精が言いました。
ピピは照れて顔を赤くしながら、氷の精を、小さな手のひらにそっと包みました。
「ちょっと、暑いかも知れないけど、我慢してね。、バキ・ブル・モヤ、帰るわよ。」
そうして、4人は、迷路のようになっている真っ暗な氷のすきまを息を殺して泳いでいったのです。氷の精が、出口を教えてくれたのでみんな何とか無事に氷山の外に出ることができました。
”まだ、魔法使いは気づいていないようです。”
と氷の精が言うのを聞いて、みんなほっとしました。
「どうやったら、元の姿に戻れるかしら?」
ピピがまた聞きました。
「そんなことより、ピピさん、早く戻ろうよ。帰ってからにしようよ。」
バキがそわそわしながら言いました。
「なあんだ。ま〜だ、怖がってる。」
ブルが笑いました。
「だって、変な音がするんだよ。」
バキが鼻をふくらませながら言いました。
みんなはっとして、耳を澄ませたのです。確かに、かすかですが、聞いたこともない低い、地鳴りのような音が、水を通して伝わってきました。
”見つかってしまったわ!”
「えっ?魔法使いに?」
ピピが聞きます。
”いいえ、手下の怪物です。みんな早く!”
さあ、大変。みんな、一目散に逃げ出しました。ピピは、右手に氷の精を抱え、左手でしっかりバキの肩にしがみつきました。

(ルイさん)

イラスト:ルイさん
イラスト:トン
イラスト:ルイさん
北の国の人魚の冒険 (2 )