北の国の冷たい氷の海の下に、ピピというかわいい人魚の女の子がおりました。
彼女はトリトン族という一族の生き残りなのですが、まだそのことをしらないでいます。
ある日、仲間のアザラシたちとけんかしてしまったピピは行ってはいけないときつく言われていた氷の海の下にもぐって行きました。
そこはおそろしい魔神が住むという氷山の下でしたが、ピピはおかまいなしにどんどん深く潜っていきました。
青緑の海はやがて真っ暗になり、光がまったくとどかなくなりました。

(うみかほるさん)

水もさらに冷たくなりました。
ピピはちょっと心細くなり、
きっと皆が私を探して心配しているわ、
しかたないから戻ってあげるわ、とつぶやき、帰ろうと思いました。
でも、深い暗い海で、自分がどこからきたのかわからなくなっていました。
ピピは仲間のアザラシの名前を呼びながら泳ぎました。
やがてピピは自分の周りに小さなピンク色のハートの形をしたものが漂っているのに
気がつきました。
何かしら?、ピピはそのかわいらしい生き物に誘われるようについていきました。
やがて、暗い大きな氷山の割れ目からかすかに光が漏れているのを見つけました。
(トン)

そっと近づき 中を覗こうとしたとき突然声が響きました。
耳にではなく頭の中から聞こえます。
“近づいてはダメ!早く逃げて!”
辺りを見ると、あの不思議なハートの形の生き物がピピの周りをまわっていました。
「頭の中の声は この生き物かしら?」
ピピが話しかけようとした瞬間 今度は鋭い金属音が頭を貫きました。
いままで感じたこともない 痛みを伴うその音は次第にピピの意識を奪っていきます。

(高森はいねさん)

                    ”助けて。私達を助けて。”
                    ハートの形の生き物たちはピピに呼びか
                    けます。
                   「何、あなたたちは何なの? 頭が痛い。
                    やめて。」


   ピピは、頭を押さえながら、ハートの生き物たちに訴えます。
   すると、生き物たちは、優しい声でピピに話かけてきました。
   ”私達は氷の精…。でも、悪い魔法使いが私達をこんな姿にしてしまったの。”
   「悪い魔法使いって誰?」
   ピピが問いかけると、氷の精たちが教えてくれました。
   ”この中に悪い魔法使いが眠っているわ。近づいたら、あなたも私達のように
    されてしまうわよ”

   「嫌よ、そんなの。」
    ピピは身を震わせます。
   ”お願い。あなたなら私達をもとの姿に変えられる。”
   「そんな。私にはそんな力なんてないわ〜。」
    いきなりそんなことをいわれてもピピは困るばかり。
    でも、氷の精たちは口々にいいました。
   ”男の子。あなたは、その男の子と出会うでしょう。
    あなたが出会う男の子は、赤く光る剣を持っているわ。”
   ”その男の子の剣で、私達はもとの姿にもどることができる。
    その男の子を呼んできて。あなたに会うために、その男の子は
    この北の海に来るはずだから。”

   「ええっ? 男の子が私に会いにくるの〜?」
   ”そうよ。お願い、早く。早く。”
   「わかったから、頭の中でそんなに叫ばないで。うるさいわよ〜。」
    ピピが叫ぶと、氷の精たちの声は消えました。
    氷の精たちは、ピピからすっと去っていきます。
    ピピも氷山の割れ目から慌てて離れました。
   「男の子。私を迎えに来る男の子?」
    ピピは、悩み続けました。
    いったい、どんな男の子なのでしょう。
    そして、氷の精たちをもとの姿にもどせるのでしょうか。

     (ちあきさん)

    ピピは、男の子の姿を探して、さらに、北の海の中を泳ぎ続けました。
    しばらくすると、やっと氷山の外に出られたのか、上の方がうっすらと
    明るくなってきました。
   「ああ、良かった。あの怖いところから出られたんだわ。」
    ピピは、ほっとして、少しゆっくりと泳ぎ始めました。
    でも、あの可哀想な氷の精達のことが気になって仕方ありません。
   「私を逃がしたことで、悪い魔法使いにきっと、
    ひどい目に遭わされているわ。」
    一体どうすればいいのでしょう?
   「少しでも早く、その男の子を見つけなきゃ。」
    ピピは勇気を奮い起こすと、また氷の海を泳ぎ始めました。
    その時、かすかな声が聞こえました。

      (ルイさん)

「ピピさーーん」
それは、ピピを心配して探すバキ、ブル、モヤというアザラシの男の子たちでした。
「ここよーー」
ピピは手を振り、無事に再会できたことを喜び、すぐにバキの背に乗りました。
バキの背の上で、ピピは考えました。
“男の子・・その子はバキのような子かしら?それとも私と同じひれをもつ男の子かしら?”
“赤いケン・・ケンってなに?赤く光るものをもっていれば、その子が私を迎えにくるのね。でも、迎えにって・・どこに行くの?私はここを離れたくないわ”

ピピの頭は混乱してきました。
「ねえ、皆、これから話すことは他の人にはぜーったい内緒よ。とくにプロテウスにはね」
ピピは氷の精との約束を話しはじめました。
話し終えるとバキは顔を赤くして
「ピピさんをそんな奴にわたさないぞ〜!
ピピさんはここの女王様なんだからね。
そんな男の子なんてあてにしないで、
僕らでその悪い魔法使いから氷の精を
救ってやるからね!」
と鼻息荒く叫びました。
ブル、モヤも同じようにうなづいていました。

(トン)

「でも、今日は、もう帰ろうよ。ピピさん、
 プロテウスのじいさんも心配してるよ。」
バキが言いました。ピピは、頷くといつもの
ようにバキの背中に乗りました。
一緒に泳ぎながら、ブルとモヤが話して
います。
「どうやったら、氷の精を助けられるかな〜」
「赤い剣を使えばいいんだろう?」
「赤い剣ってなんだよ。
 見たこと無いじゃないか。」
「人間のとこに行けばいい。きっとあいつらなら持ってるんじゃ・・」
「ええっ!人間?あんな恐ろしい奴のとこなんか、絶対だめ。」
「人間って何?」ピピが尋ねると、バキがすかさず答えました。
「とっても怖い奴なんだ、ピピさんみたいな姿をしてるんだけど、ひれじゃなくて足ってのがあって氷の上を歩き回ってるんだよ。大きな音をする棒を持っていて、その棒を向けられたら、みんな死んじゃうんだ。」
バキは、よほど怖い目に遭っているのでしょう。ぶるぶる震えだしました。
「やあねえ。バキの意気地無し。」
ピピは口をとがらせました。でも、そんな恐ろしい生き物が陸にいるのかと思うと、やはり、ピピも怖かったのでした。
ようやく、みんなのいる入り江が見えてきました。入り江の岸辺に大きなゾウアザラシの姿がありました。
「あ、プロテウスだわ。プロテウス〜〜。」
ピピはプロテウスのおじいさんに飛びつきました。
「ピピよ。どこへ行ってたんじゃね。みんな心配してたんじゃ。」
おじいさんは目を細めました。

(ルイさん)

トリトンの部屋 (2)

北の国の人魚の冒険 (1 )
イラスト:高森はいねさん
イラスト:高森はいねさん
イラスト:トン
はじめに
  この物語は右下の高森はいねさんのイラストにうみかほるさんが物語りの出だしを書いてくださり、自然に始まったリレー式物語です。
  それぞれ文章の最後に書いてくださった方のお名前を書かせていただきました。ありがとうございました。

  それでは、ごゆっくりお楽しみください♪