海亀が海に還った。
私はすっかり眠気がさめた。まだ、亀の足跡を眺めていた。
すると、大人たちが砂浜に数人下り始めた。
そして、(予想された方もいらっしゃるかもしれませんが、)卵を掘り返したのだ。
最初は人が数人固まっていたので、何をしているのかはわからなかた。
が、しばらくすると少しずつ手のひらにピンポン玉のような卵を持っていた。
もちろん今の時代のように孵化させて、小亀を海に返すようなことはしていなかった。
持ち出した卵はわずかだと思う。この時代の大人の良心を信じて・・・
当時、まだ、贅沢のできない村の生活、栄養豊富な?海がめの卵は「海からの贈り物」と考えていたのだろう(でも、ちゃんと日本の話ですからね〜。私の勝手な推測です)。
私は家に帰った。
そこで、私にも卵が1個渡された。
私はいらないといった。
かわいそうという感情以前に、生卵を飲むのが嫌だったのだ。
小さい頃の私は非常に好き嫌いが多く、困った子供だった。
じゃあ、触ってごらんといわれ、1個手に取った。
見た目はピンポン玉で指で押すとポコンとへっこんだ。
おもしろくて、指で何度もポコポコ押してみた。
こうやって食べるんだ、と親戚のおじいちゃんが卵の殻を1cmほど指で破き、その穴に直接口をつけて、中味を吸い出すように食べた。
そして、私の卵にも指で小さな穴を破いて、開けてくれた。
私は、好奇心に負けて、卵に口をつけた。
小さい私は吸うことも下手だったが、中味も濃厚で喉を通りにくかった。
時間をかけてやっと海の香りのする卵を飲んだ。
美味しくなかった。
海亀の卵を口にしたのはこれが最初で最後である。
きっともう二度とないだろう。
あの亀にはすまないことをしたが、貴重な体験として私の記憶に残っている。
(おしまい)
(鹿児島県では昭和63年3月28日に鹿児島県ウミガメ保護条例が公布されています。
今、同じことをすれば、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するという罰則があります・・・)